「この患者さん、本当に捻挫で請求していいのだろうか」と、保険の書類を前に手が止まったことはありませんか。院長の指示だからと従っていても、心のどこかで引っかかりを感じている柔道整復師は少なくありません。
接骨院の闇とは、慢性的な肩こりをケガとして保険請求するなど、ルールから外れた療養費の請求が一部の院で続いている問題のことです。真面目に働く柔道整復師にとっても、知らないうちに巻き込まれるリスクがあります。
この記事では、厚生労働省の資料をもとに保険請求をめぐる実態と勤務者のリスクを整理し、不正に巻き込まれない職場の選び方を解説します。
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接骨院の闇とは?保険請求をめぐるグレーな実態
接骨院の闇の中心は、健康保険が使えない症状や部位を、使えるように見せかけて請求する行為です。保険の対象が限られているのに、慢性症状の患者さんが多いというずれが、不正の温床になっています。
健康保険が使えるのは急性・亜急性のケガだけ
接骨院で健康保険が使えるのは、骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷といった外傷に限られます。骨折と脱臼は、応急手当を除き医師の同意が必要です。
一方、単なる肩こりや筋肉の疲れ、原因のはっきりしない慢性的な腰痛は、保険の対象外です。しかし、実際に来院する患者さんの多くは、こうした慢性的な不調を抱えています。
「いつ、どこで、どうやって痛めたか」を問診で確認できないまま、捻挫として書類を作る。この小さなずれの積み重ねが、接骨院の闇の出発点です。
部位転がし・白紙委任などの典型的な手口
不正やグレーな請求には、いくつかの典型的なパターンがあります。
- 部位転がし:症状が治まると、別の部位を痛めたことにして通院を続けさせる
- 付け替え・水増し:実際とは違う部位や、施術していない部位の分まで請求する
- 白紙委任:施術内容や金額を見せないまま、療養費支給申請書に署名だけさせる
- 架空請求:来院していない日の施術を書類に記載する
どの手口も、患者さんが書類の中身を確認しないことや、保険の仕組みをよく知らないことを前提にしています。一度始まると院全体の売上目標に組み込まれ、やめにくくなる点も問題です。
月末の締め作業で、院長から「この患者さんは今月から腰も追加しておいて」と言われる。そんな場面に心当たりがあるなら、立ち止まって考える必要があります。
勤務する柔道整復師が不正請求に巻き込まれるリスク
不正請求は院長だけの問題ではなく、書類を作成した勤務者も責任を問われるおそれがあります。発覚すれば院が保険を扱えなくなり、職場そのものを失う可能性もあります。
「院長の指示だった」では済まない可能性がある
療養費の不正請求は、悪質な場合は詐欺として刑事事件になることもある行為です。指示されて書類を作っただけでも、加担したとみなされるリスクはゼロではありません。
また、保険請求の責任者となる「施術管理者」には、2018年4月から厳しい要件が設けられました。厚生労働省の案内によると、実務経験(2024年4月以降の届出では3年)と、16時間以上の研修の受講が必要です。将来、施術管理者を目指す人ほど、若いうちから正しい請求に触れておくことが大切です。
不正が当たり前の環境で数年働くと、それが「普通」だと思い込んでしまいます。転職先で同じやり方をすれば、今度は自分が責任者として問われる立場になりかねません。
行政の指導・監査と受領委任の中止
不正が疑われる院には、地方厚生局と都道府県による指導や監査が入ります。
厚生労働省の資料「柔道整復師に対する指導・監査等の実施状況」によると、平成27年度は全国で個別指導が89件、監査が26件行われ、受領委任の取扱いの中止等は25件でした。保険者からの情報提供も735件ありました。
保険者は、患者さんへの照会文書などで施術の内容を確認しています。「受けた覚えのない施術が書かれている」という患者さんの回答から、不正が明らかになることもあります。
受領委任の取扱いが中止されると、その院では患者さんが窓口で一部負担金だけを払う仕組みが使えなくなります。保険中心の院にとっては経営の柱を失うことになり、勤務者の雇用にも直結します。
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不正請求に巻き込まれない職場の見極め方
職場を選ぶときは、見学や面接で保険請求への向き合い方を確かめ、自費や医療機関など保険への依存度が低い職場も比べることが大切です。制度は年々厳しくなっており、正しい請求をしている院ほど長く安心して働けます。
見学・面接で確認したい保険請求のチェック項目
保険請求の姿勢は、質問への答え方や院内の様子から見えてきます。
| 確認する場面 | 安心できるサイン | 注意したいサイン |
|---|---|---|
| 受付・待合室 | 保険と自費の違いを掲示で説明している | 「肩こりも保険OK」などの表示がある |
| 施術の様子 | 負傷の原因を問診で丁寧に聞いている | 全員に同じ部位数の施術をしている |
| 面接での説明 | 保険の対象を説明でき、研修がある | 「1人3部位が基本」など部位数の目標がある |
| 書類の扱い | 申請書は施術後に内容を見せて署名をもらう | まとめて署名をもらう運用がある |
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自費中心の院や医療機関など、保険に頼りすぎない職場を比べる
保険請求の制度は、年々厳しくなっています。
2026年6月の厚生労働省の通知により、2026年7月施術分からは、複数の部位を施術した場合に2部位目から減額(80%)されるようになりました。部位数を増やして売上を作る院ほど、影響を受けやすい見直しです。
療養費の総額も、厚生労働省の推計では平成23年度の4,085億円をピークに減り始め、平成26年度には3,825億円になりました。保険の売上が縮むなかで無理に数字を保とうとする院ほど、グレーな請求に頼りやすくなるといえます。
一方、柔道整復の施術所は全国で50,924か所(衛生行政報告例・令和6年)にのぼり、競争は続いています。保険だけに頼らない院や、整形外科などの医療機関、介護施設は、請求の不安を減らしたい人にとって有力な選択肢です。
- 自費中心の院:慢性症状にも正面から施術できるが、売上目標の確認は必要
- 整形外科クリニック:医師の指示のもとで働け、請求の不安が少ない
- 介護施設の機能訓練指導員:保険請求に関わらず、資格を活かせる
自費施術を学びたい方は、自費施術の導入で年収を伸ばす方法も参考になります。業界全体の構造については、治療家業界の闇を解説した記事でも取り上げています。
よくある質問(FAQ)
整骨院で肩こりに保険を使うのは違法ですか?
単なる肩こりや慢性的な疲れは、健康保険の対象外です。保険が使えるのは骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷といった外傷に限られます。肩こりをケガとして請求すると不正請求に当たるおそれがあり、施術した柔道整復師も責任を問われる可能性があります。
院長に部位転がしを指示されたら、どうすればいいですか?
まずは指示の内容をメモやメッセージで記録し、従わない姿勢をはっきり示すことが大切です。一人で抱え込まず、信頼できる先輩や第三者に相談しましょう。改善が見込めない場合は、自分のキャリアを守るために転職を検討するのが現実的です。
不正請求をしている接骨院で働いていたことは、転職で不利になりますか?
勤めていた事実だけで不利になるとは限りません。面接では「保険請求の考え方が合わなかった」など、正しい施術をしたいという前向きな理由として伝えましょう。ただし院が行政処分を受けた場合は経緯を聞かれることがあるため、事実を簡潔に説明できるよう準備しておくと安心です。
保険請求の不安がない職場はどうやって探せばいいですか?
見学で問診の丁寧さや掲示物を確認し、面接で保険の対象や部位数の考え方を質問するのが効果的です。自費中心の院や整形外科クリニックなど、保険請求への依存度が低い職場を比べるのも一つの方法です。判断に迷う場合は、業界に詳しい第三者に相談しましょう。
まとめ
接骨院の闇とは、保険の対象外の症状や部位をケガに見せかけて請求する、一部の院の問題です。
- 健康保険が使えるのは、骨折・脱臼・打撲・捻挫・挫傷といった外傷だけ
- 不正請求は勤務者も責任を問われるおそれがあり、院が受領委任を中止されれば職場も失う
- 見学・面接で保険請求の姿勢を確かめ、保険に頼りすぎない職場も比べる
正しい請求をしている院を選ぶことは、自分の資格とキャリアを守ることにつながります。
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