「鍼灸院を辞めて、いずれは自分の院を開きたい」「退職後は失業保険をもらいながら、開業の準備をすればいいのでは」。開業を目標にする鍼灸師から、こうした声を聞くことがあります。
結論から言うと、失業保険(雇用保険の基本手当)は、再就職を目指して求職活動をしている人のための給付です。開業の準備に専念している間は、原則として受け取れません。ただし、事業を始めた人のための受給期間の特例もあります。この記事では、受給の条件、開業との関係、知っておきたい制度を解説します。
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失業保険は「再就職を目指す人」のための給付
失業保険(雇用保険の基本手当)は、働く意思と能力があり、求職活動をしているのに仕事に就けない人が受け取れる給付です。開業の準備に専念していて就職するつもりがない場合は、「失業の状態」にあたらず、原則として受け取れません。
基本手当とは、雇用保険に加入していた人が離職した後、再就職するまでの生活を支えるために支給されるお金のことです。ハローワークで求職の申し込みをして、受給資格の決定を受ける必要があります。
たとえば、鍼灸院で6年働いた30代の鍼灸師が、退職後すぐに物件探しや内装の打ち合わせに専念する場合、就職するつもりがないため基本手当の対象にはなりません。「とりあえず失業保険で生活費をまかなおう」と考えて計画を立てると、資金繰りが大きく狂うことがあります。
受給するための主な条件
- 離職の日以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上あること(倒産・解雇などの場合は1年間に6か月以上)
- 就職しようとする意思と、いつでも就職できる能力があること
- ハローワークで求職の申し込みをし、求職活動をしていること
鍼灸院で雇われて働いていた期間に、雇用保険に入っていたかどうかも確認しましょう。給与明細で雇用保険料が引かれていれば、加入していたと考えられます。
基本手当の金額の目安
基本手当の1日あたりの金額は、原則として離職前6か月の賃金の合計を180で割った「賃金日額」の、およそ50〜80%(60〜64歳は45〜80%)です。賃金が低い人ほど割合が高くなる仕組みで、上限額も決められています。
手取りの給料と同じ金額を受け取れるわけではないため、退職後の生活費は少し余裕を持って見積もっておきましょう。
自己都合で辞めた場合の給付日数と給付制限
自己都合で退職した場合の基本手当の給付日数は、雇用保険に入っていた期間によって90日から150日です。また、受け取り始めるまでに、待期期間の7日間に加えて、給付制限の期間があります。
| 雇用保険に入っていた期間 | 給付日数(自己都合などの一般の離職者) |
|---|---|
| 10年未満 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 20年以上 | 150日 |
なお、院の倒産や解雇など、会社の都合で離職した場合は、年齢と加入期間に応じて給付日数が多くなることがあります。
2025年4月から給付制限は原則1か月に
自己都合で退職した人の給付制限の期間は、2025年4月から、原則2か月から1か月に短縮されました。ただし、過去5年間に3回以上自己都合で退職している場合は、3か月の給付制限がかかります。
また、離職の前後に、雇用の安定や就職の促進につながる一定の教育訓練を自ら受けた場合は、給付制限が解除される仕組みもできています。対象になる訓練は、ハローワークで確認しましょう。
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開業を考える鍼灸師が知っておきたい受給期間の特例
基本手当を受け取れる期間(受給期間)は、原則として離職の日の翌日から1年間です。ただし2022年7月からは、離職後に事業を始めた人について、事業を行っている期間などを最大3年間、受給期間に数えない特例ができました。
この特例を使うと、開業した院がうまくいかずに廃業した場合でも、その後に再就職を目指すときに、基本手当を受け取れる可能性が残ります。挑戦した結果、雇われて働く道に戻ることになっても、生活の支えを失わずに済む仕組みです。
開業は、思いどおりに進まないこともあります。万一のときの備えがあると、思い切って挑戦しやすくなります。
特例を使うときの注意点
- 事業を始めた日の翌日から2か月以内に、ハローワークへ申請する
- 開業届の控えなど、事業を始めたことがわかる書類を用意する
- 再び求職活動を始めるときは、ハローワークで手続きをする
申請の期限を過ぎると特例を使えなくなるおそれがあります。開業届を出したら、すぐにハローワークにも相談しましょう。
再就職手当の対象になる場合もある
基本手当を受け取っている途中で早く仕事に就いた場合、条件を満たせば「再就職手当」を受け取れることがあります。事業を始めた場合も、一定の条件を満たせば対象になる場合があるため、開業の時期が決まったらハローワークに確認してみましょう。
開業前に求職活動をする場合の考え方
「開業の資金が貯まるまでは、ほかの鍼灸院で働きたい」という場合は、再就職を目指していることになるため、求職活動をしながら基本手当を受け取ることができます。開業の準備を少しずつ進めることと、求職活動をしていることを、ハローワークに正直に伝えて相談することが大切です。
開業の準備の進め方は、鍼灸師の開業準備の記事で詳しく解説しています。
開業までにほかの院で働く場合は、訪問鍼灸や美容鍼など、開業後に取り入れたい分野の経験を積める職場を選ぶのも一つの方法です。働きながら患者さんの層や地域の需要を知ることは、開業の計画づくりにも役立ちます。
退職から開業までの流れを整理しよう
退職してから開業するまでの間は、収入が不安定になりやすい時期です。失業保険に頼りすぎず、資金や手続きの計画を立てておきましょう。
- 退職前に、開業資金と生活費の目安を計算しておく
- 離職票を受け取り、雇用保険の加入期間と離職理由を確認する
- 健康保険と年金の切り替えを、退職後すぐに行う
- 開業する場合は、開業届と受給期間の特例の申請を忘れずに行う
離職票に書かれた離職理由が、自分の認識と違う場合は、ハローワークで異議を申し立てることができます。給付制限の有無にかかわるため、受け取ったらすぐに確認しましょう。
退職の伝え方は鍼灸院の辞め方の記事で、退職後の健康保険と年金の手続きは退職後の保険と年金の記事でまとめています。
よくある質問(FAQ)
鍼灸院を辞めて開業の準備をしている間、失業保険はもらえますか?
開業の準備に専念していて就職するつもりがない場合は、失業の状態にあたらず、原則として受け取れません。再就職を目指して求職活動をしている場合は、受け取れる可能性があります。
自己都合で鍼灸院を辞めた場合、失業保険はいつからもらえますか?
待期期間の7日間の後、2025年4月からは原則1か月の給付制限があります。過去5年間に3回以上自己都合で退職している場合は、給付制限が3か月になります。
開業した院がうまくいかなかったら、失業保険はもらえませんか?
2022年7月からの特例で、事業を始めた日の翌日から2か月以内に申請しておけば、事業を行っていた期間などを最大3年間、受給期間に数えないことができます。廃業後に再就職を目指すときに、基本手当を受け取れる可能性があります。
鍼灸師の失業保険の給付日数はどれくらいですか?
自己都合などの一般の離職者は、雇用保険に入っていた期間が10年未満で90日、10年以上20年未満で120日、20年以上で150日です。
業務委託で働いていた鍼灸院を辞めた場合も、失業保険はもらえますか?
業務委託の場合は、原則として雇用保険に加入していないため、基本手当の対象になりません。雇用されていた期間があるかどうか、雇用保険の加入記録を確認しましょう。
まとめ|失業保険と開業の関係を知って、計画的に準備しよう
失業保険(基本手当)は、再就職を目指す人のための給付です。開業の準備に専念している間は、原則として受け取れません。
- 受給には、原則として離職前2年間に雇用保険の加入期間が12か月以上必要
- 自己都合の給付制限は、2025年4月から原則1か月
- 事業を始めた人は、受給期間の特例(最大3年)を申請できる
- 特例の申請は、事業を始めた日の翌日から2か月以内
開業は、鍼灸師にとって大きな挑戦です。使える制度を正しく知って、安心して一歩を踏み出しましょう。
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