「1日に何軒も患者さんのお宅を回るのに、給料が出るのは施術した時間だけ」「移動中の渋滞で予定が押しても、その分は無給」。訪問マッサージで働くあん摩マッサージ指圧師から、こうした悩みを聞くことがあります。
結論から言うと、訪問先から次の訪問先への移動時間は、事業所の指示で移動していて、自由に使えない時間であれば、労働時間にあたる可能性が高いと考えられます。この記事では、移動時間が労働時間になる考え方、通勤時間との違い、歩合制や直行直帰で働く場合の注意点を解説します。
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訪問先の間の移動時間は労働時間になる可能性が高い
訪問マッサージで、事業所の指示により患者さん宅から次の患者さん宅へ移動する時間は、自由に使えない時間であれば労働時間にあたる可能性が高いといえます。施術している時間だけが労働時間というわけではありません。
労働時間とは、働く人が使用者の指揮命令のもとに置かれている時間のことです。最高裁判所は2000年3月9日の判決(三菱重工業長崎造船所事件)で、労働時間にあたるかどうかは、契約や就業規則の決め方ではなく、客観的に見て使用者の指揮命令下に置かれているかで判断するという考え方を示しています。
訪問介護の通達が参考になる
厚生労働省は2004年8月27日の通達「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」で、利用者宅の間の移動時間について、使用者が業務に必要な移動を命じ、その時間を自由に使えることが保障されていない場合は労働時間にあたるという考え方を示しています。
この通達は訪問介護で働く人を対象にしたものですが、患者さん宅を順番に訪問する訪問マッサージも、働き方の仕組みはよく似ています。移動時間を考えるときの参考になる考え方です。
たとえば、朝9時に事業所を出て、午前中に3軒、午後に3軒を回り、18時に事業所へ戻るとします。施術の時間が1軒30分なら、施術だけで3時間です。残りの時間の多くは、移動や準備、記録の時間です。この時間がすべて無給なら、実際に拘束されている時間に比べて、給料がかなり少なくなってしまいます。
通勤時間と移動時間の違い
自宅から最初の訪問先までと、最後の訪問先から自宅までの時間は、原則として通勤時間とされ、労働時間にはあたりません。一方、訪問先の間の移動は、仕事の途中の移動として労働時間になりうる時間です。
| 移動の場面 | 扱いの目安 |
|---|---|
| 自宅から最初の訪問先へ直行する | 原則として通勤時間 |
| 事業所に出勤してから最初の訪問先へ向かう | 業務としての移動で、労働時間になりうる |
| 訪問先から次の訪問先へ移動する | 自由に使えない時間なら労働時間になりうる |
| 最後の訪問先から事業所に戻り、報告や片付けをする | 戻る移動も報告も労働時間になりうる |
| 最後の訪問先から自宅へ直帰する | 原則として通勤時間 |
移動中の事故は労災の対象になる
訪問先の間を社用車や自転車で移動している途中の事故は、仕事中のけがとして労災保険(業務災害)の対象になりえます。移動が仕事の一部であることは、こうした場面からもわかります。けがをしたときは、健康保険ではなく労災保険を使うよう事業所に伝えましょう。
空き時間は休憩になるのか
訪問と訪問の間に1時間以上の空き時間があり、その時間を自由に過ごせるなら、休憩時間として扱われることもあります。ただし、空き時間でも事業所からの電話にすぐ対応するよう求められている、記録の入力を指示されているといった場合は、自由に使えるとはいえません。
「空き時間」とされている時間に何をしているかを、日ごとにメモしておくと、後で確認するときに役立ちます。
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歩合制で働く場合の注意点
訪問マッサージでは、施術1回あたりの歩合で給料が決まる働き方も多く見られます。歩合制であっても、雇われて働く人には最低賃金法と労働基準法が適用されます。
移動時間を含めて最低賃金を下回っていないか
歩合制の場合、移動時間を含めた実際の労働時間で給料を割ったときに、地域の最低賃金を下回っていないかがポイントになります。施術の件数が少ない月に、移動ばかりで給料がほとんど出ないような仕組みは、最低賃金を下回るおそれがあります。
また、労働基準法27条では、出来高払制で働く人には、働いた時間に応じた一定額の賃金(保障給)を保障するよう定めています。歩合と最低賃金の関係は、完全歩合の鍼灸院の記事でも詳しく解説しています。
業務委託の場合は扱いが違う
雇用ではなく業務委託契約で働いている場合は、原則として労働基準法の労働時間のルールは適用されません。ただし、契約の名前が業務委託でも、訪問のスケジュールを事業所に細かく決められている、断る自由がないといった実態があれば、雇われて働く人と判断される可能性もあります。
自分の契約が雇用なのか業務委託なのかわからない場合は、契約書の名前と、給与明細で雇用保険料や社会保険料が引かれているかを確認してみましょう。判断に迷うときは、労働基準監督署に相談できます。
直行直帰や「みなし労働時間」と言われたら
訪問先に直行直帰する働き方では、「事業場外みなし労働時間制だから、実際の時間は関係ない」と説明されることがあります。この制度は、事業所の外で働いていて、労働時間を算定しがたい場合に限って使える仕組みです(労働基準法38条の2)。
訪問のスケジュールが事前に決められていて、訪問の開始や終了をスマートフォンなどで報告している場合は、労働時間を把握できると考えられ、この制度が使えないこともあります。最高裁判所も2014年1月24日の判決(阪急トラベルサポート事件)で、旅行の添乗業務について、具体的な指示や報告があったことから「労働時間を算定し難いとき」にあたらないと判断しています。
「みなし」と言われても、あきらめる必要はありません。まずは就業規則や労働条件通知書に、どのような労働時間制度が書かれているかを確かめましょう。書面に書かれていない場合は、事業所に説明を求めることができます。
確認しておきたい記録
- 1日の訪問スケジュール表と、実際に訪問した時刻
- 移動手段(社用車、自転車、公共交通機関)と移動にかかった時間
- 事業所への報告の時刻(LINEやアプリの送信記録)
- 給与明細と、施術件数・歩合の計算のしかた
訪問マッサージの求人を見るときのポイントは訪問マッサージの求人の記事で、訪問の現場で気をつけたい不正請求のリスクは訪問マッサージの不正請求の記事で紹介しています。
よくある質問(FAQ)
訪問マッサージで、患者さん宅の間の移動時間に給料は出ますか?
事業所の指示で移動していて、自由に使えない時間であれば、労働時間にあたる可能性が高いと考えられます。労働時間であれば、その時間にも賃金が支払われる必要があります。
自宅から最初の訪問先までの時間も労働時間ですか?
直行する場合、自宅から最初の訪問先までと、最後の訪問先から自宅までの時間は、原則として通勤時間とされます。事業所に出勤してから訪問に出る場合は、その後の移動は業務としての移動になりえます。
歩合制の訪問マッサージでも最低賃金は守られますか?
守られる必要があります。移動時間も含めた実際の労働時間で給料を割ったときに、地域の最低賃金を下回っていないかを確認しましょう。
訪問の合間の空き時間は、休憩になりますか?
自由に過ごせる時間なら休憩として扱われることもあります。ただし、電話対応や記録の入力を求められている場合は、自由に使えるとはいえず、労働時間になる可能性があります。
移動時間の扱いに納得できないときは、どこに相談できますか?
労働基準監督署や労働局の総合労働相談コーナーに、無料で相談できます。訪問スケジュールや実際の時刻、給与明細などの記録を用意して相談しましょう。
まとめ|移動も仕事の一部。記録をつけて確認しよう
訪問マッサージで患者さん宅の間を移動する時間は、事業所の指示で動いていて自由に使えないなら、労働時間にあたる可能性が高い時間です。
- 労働時間かどうかは、契約の名前ではなく実態で判断される
- 直行直帰の最初と最後の移動は、原則として通勤時間
- 歩合制でも、移動時間を含めて最低賃金を下回ってはいけない
- 「みなし労働時間」は、時間を把握できる働き方では使えないことがある
患者さんの暮らしを支える訪問の仕事だからこそ、自分の働いた時間も正しく評価されるべきです。
訪問マッサージの働き方を見直したい方も、お気軽にご相談ください。
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